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 《中丸薫のワールドレポートVol.83》の内容を特別に公開することにいたしました。

* 中丸薫のワールドレポートは毎月一日に発行されます。

《中丸薫のWORLD REPORT》 Vol.83 2005年9月号
INDEX

◆国際情勢◆
『イラクの今後』

アメリカのイラク政策が完全に行き詰まりを見せる中、米英撤退後の各部族間抗争計画が着々と進行している。武装し、油田の利権を訴え続ける各宗派。そして、この様なタイミングで、イラク政府がイランと接近する理由とは…。

◆トピックス◆
『今こそ意志を持って立ち上がる時』

かつて小泉政権は、赤字国債を30兆円以下にし、3年で国の借金を返すという事でスタートした。だがあれだけ「国民の為」と豪語した道路公団は、不完全な法案となった。そして今、国民の資産を「国営」から外資経由の「民営会社」に差し出す事を「郵政民営化」という法案で遂行しようとしている。

◆交友録◆
『ジョン・ガルブレイス』

幸福の物差しが、財や身分で簡単に計られるアメリカ。ガルブレイス教授が見たアメリカと日本の違いと、現在の日本に求める視点とは…。




◆国際情勢◆

『イラクの今後』

「イラク三分割」の現実味

 日本は今「選挙」一色に染まり、イラクでテロが起こって多数の死傷者が出ても大したニュースにならず、かの国の混乱は遠い地球の裏側のできごととなっている。だが、アメリカは違う。この一カ月の間に駐留米軍兵士約四〇人が亡くなり、改めてイラク戦争の大義を問う声が上がっている。ブッシュ政権のイラク政策への支持率も、最新の世論調査で過去最低の三八%を記録し、不支持は五九%にも上った。ブッシュ大統領の自信ありげな態度を「高慢」と見る人の割合も、今年初めの四九%から五六%に増加、ブッシュ大統領の職務全体への不支持も五五%と過半数を超えた。メディアでも「米軍の掃討作戦は事態を悪化させるだけだ」(シカゴ・トリビューン)「ブッシュ大統領はイラク戦争をどう終わらせるのか、国民に示すべきだ」(バルチモア・サン)といった、厳しい指摘が目につく。もはやアメリカのイラク政策は、完全に手詰まりになったと言っていい状態である。

 七月下旬、イラク駐留米軍のケーシー司令官は、バクダッドで会見し、駐留米軍の今後について、政治プロセスやイラク軍の訓練が順調に進めば「来年春か夏にかなりの規模で削減できる」と語った。また、イラクのジャファリ首相も、同日、米駐留軍削減について「われわれはスピードを求めている」と述べた。だが、イラクの治安悪化は全国規模で拡大しており、ケーシー司令官が示したプロセスはあまりに楽観的すぎる。比較的治安が安定していると言われるバスラでも、ゲリラを支持しているイラク警官が多く、武装勢力を取締まる職務になると、警官の四分の三は現場を離れたり、ゲリラ側に味方しているありさまである。米国防省も七月下旬、「イラク軍の三分の二と、警察部隊の半分は、いぜんとして能力が備わっておらず、米軍の支援があっても十分に職務が遂行できない」との報告書を提出したばかりだ。

 このような状況下で駐留米英軍が撤退すれば、イラクの分裂は必至である。すでに北部のクルド族と南部のシーア派住民の間では、米英軍撤退後をにらんで、自治権を拡大する動きが活発化している。一方、スンニ派は、同派の憲法起草委員が武装勢力に殺されたことを理由に、新憲法の起草期限を目前にして、憲法制定委員会から突如委員全員を引き上げ、対立姿勢をあらわにしている。ネオコンが目論んだ「イラク三分割」が、にわかに現実味を帯びてきているのである。

 イラク北部と南部には油田があり、クルド族やシーア派住民は、かねてから自治権を確立して石油収入を直接得ることを望んでいた。ネオコンは、そうした事情を見越してクルド勢力やシーア派への武器の供給ルートを築いているものと見られ、近い将来イラクでの内戦が激化するのではないかと懸念されている。イラクのクルド族の勢いが増せば、その影響はトルコ、シリア、イランのクルド族にも飛び火し、周辺国の政情をも不安定にする。それが中東大動乱の導火線となるのは明らかだ。恐らく、イラクと中東の混乱をもっとも的確に予測しているのは米英両政府であろう。だからこそ、彼らはイラクの「自治」、「自立」、「権限委譲」が可能であるかのような発表を繰り返しているのである。


イラクとイラン関係強化へ

 駐留米軍に対するレジスタンスが激化する一方で、イラク政府はかつての敵国であるイランと急接近している。イラクのジャファリ首相は、七月一六日からイランを訪問。イラン・イラク戦争における旧フセイン政権の開戦責任を認め、謝罪した。そして、将来の平和条約締結を視野に、エネルギー、軍事などで協力を深めることを確認した。イラク首脳のイラン訪問は、イラン・イラク戦争後初めてである。シーア派のアッダワ党党首であるジャファリ首相は、旧フセイン政権時代、迫害を受け、イランに亡命した経験を持つ。それだけに彼はイランに太いパイプを持ち、今回の訪問でも八月で任期を終えたハタミ大統領と、アフマディネジャド新大統領、最高指導者ハメネイ師らと会談し、大きな成果を上げた。今回の訪問にはジバリ外相、ドレイミ国防相ら七人の閣僚も同行している。ジャファリ首相は、イラン側に「イラン攻撃を目的とした外国軍にイラクの領土を使用させない。また、米軍のイラン攻撃には協力しない」ことを約束したものと見られる。

 イランは七月上旬、インド、パキスタンとともに、ロシアと中国が主導する「上海協力機構」にオブザーバーとして参加した。イランは、天然ガスを印パに送るパイプラインの建設交渉も進めており、世界第二位の埋蔵量を誇る石油と天然ガスを武器に、ユーラシア大陸各国との連携を強めるものと思われる。このような状況の中で、イラクから米英軍が撤退すれば、中東諸国とユーラシア大陸諸国における「非米同盟」が拡大することは間違いない。

 だが、アメリカは最近、自ら独仏にイラク戦後復興に参加するよう呼びかけるなど、外交の軸足を「対立」から「協調」に移し、「非米同盟」を容認している。英紙ガーディアンによると、ブッシュはイラクだけでなく、アフガンからも撤退したい考えを持っているという。ブッシュは最近、北朝鮮に対して柔軟な姿勢を示し、中国に対しても、九月に胡錦濤国家主席をテキサス州の私邸に招くことを表明するなど、態度を軟化させている。ブッシュ政権は、このタイミングを逃さず、ネオコンの影響力を一掃したいと考えているように見える。

 一方、わが日本はどうであろうか。皮肉なことに、アメリカに従順であった日本は、アメリカが日本の頭越しに中国や北朝鮮、韓国との関係を深める中で、孤立を余儀なくされている。日本はこれら諸国と歴史問題や領土問題で対立して身動きがとれず、内政では政治的不安定に見舞われ、ネオコンの思う壺から出られないでいる。これも自らの行くべき道を、自らで決めなかったツケといえようか。

 前号でお伝えしたロンドン同時爆破テロは、その後、ロンドン市交通局総裁が、元CIAの諜報工作部長および長官補佐を務めた米諜報界の大物であり、かつCFR(外交問題評議会)のメンバーであったことが判明した。そして、「実行犯」たちは、「訓練」と言われて手渡されたリュックを背負って、地下鉄に乗り込んだ可能性が濃厚になってきた。欺瞞と工作はイラク戦争後、世界中にまき散らされている。ここで日本が確固たる意志を持たなければ、日本とてその餌食にならないとも限らない。日本もこのあたりでアメリカ追従から足を洗い、聖なる国日本としての国家ビジョンを描くときではないだろうか。

 


◆トピックス◆
今こそ意志を持って立ち上がる時』

 日本は衆院選に突入した。小泉首相の支持率は上がっているという。日本もいよいよここまで落ちたか、と暗澹たる気持ちになる。もし、本当に郵政民営化を「国民のために」成し遂げたいのであれば、なぜ「抵抗勢力」の意見にも耳を傾け、継続審議としないのか。多様性を一切排除しようとすれば、それは独裁であり、弾圧であり、全体主義である。そのような体制のもとでは、言論の自由などありえない。テレビを見ていると、小泉首相を名君のごとく持ち上げる人々がいる。だが、リーダーとは清濁併せ呑む器を持ってこそ人の上に立つ資格があるのであり、これ見よがしに「刺客」を送り込むようなリーダーは、しょせん将たる器にあらず、ということを自ら露呈しているにすぎない。小泉首相は「改革には痛みが伴う」と言い続けてきた。国民が再び彼を承認すれば、彼の無節操で冷酷なやり方が、今度は容赦なく私たちに向けられることを、一体どれほどの国民がわかっているのであろうか。

 構造改革が必要なことは、永田町の住人から一般市民まで、異論はないであろう。だが、小泉首相が掲げている「郵政民営化」は、三五〇兆円の資産を虎視眈々と狙っている国際金融資本を利するだけだ。日本はこれまで紙くず同然の米国債を大量に買い、アメリカの繁栄と「力の道」を支えてきた。その結果、国も個人も借金まみれのアメリカが消費を謳歌し、豊富な資産を持つ日本が倹約と勤勉に努め、より一層の貯蓄に励むという奇妙な現象が起きた。そして今度は、そうまでして蓄えた国民の資産を「差し出せ」という。これが「郵政民営化」の正体である。

 かつて「米国債を売りたい衝動に駆られることがある」と口走った橋本首相は、今やすっかり権力基盤を失い、政界引退を余儀なくされている。闇の権力者たちにとって、党内でのしがらみがなく、ものごとをあまり深く考えず、「自民党をぶっ壊す」と公言して暴走するコイズミほど都合のいい人材はいない。それが、人々の予想に反して小泉政権が長期政権となっている理由である。日本の政治は、ワシントンの意向と無関係ではありえないのだ。

 日本を鋭く分析しているジャーナリストに、ベンジャミン・フルフォード氏がいる。氏は上智大学で学び、『フォーブス』の太平洋支局長などを務めた経歴を持ち、日本の国家破産を予測した『日本がアルゼンチンタンゴを踊る日』などの著作で知られる。彼は自らヤクザや右翼に取材し、また「会社では真実が書けない」と嘆く大手新聞社の記者たちから仕入れた情報をもとに、日本の闇を鋭くえぐる著作を数多く書いている。それらを読むと、日本の政界、ヤクザ、右翼、マスコミ、警察、司法が水面下でつながり、いかに日本国民をあざむいているかがよくわかる。その黒幕は、言うまでもなくアメリカであり、その背後にいる闇の権力者たちである。彼と会った折、彼は「自分は日本を第二の故郷のように思い、愛している。だが、今の日本の状況は見るにしのびなく、情けない」と涙ながらに訴えた。

 私も同感である。今の日本には、国にも国民にも意志というものがなく、深くものごとを考えることもせず、いつも誰かや何かに流されている。これがわずか一五〇年前、明治維新を成し遂げた日本かと情けなくなる。あのとき、志士たちは確固たる意志と理想を持ち、命をかけて国づくりに参加した。その遺伝子は一体どこにいってしまったのだろうか。
 最近の小泉首相を見ていると、魔に侵されているという印象を強く持つ。魔の波動は強ければ強いほど「この人なら何かやってくれるに違いない」という幻想を生み出し、人々を惹きつける。ちょうどヒトラーがそうであったように…。この魔を打ち破るのは、幕末の志士が持ったような揺るぎない意志であり、情熱であり、理想である。あの時代も、一人一人がそれぞれの立場で志を持ち、立ち上がっていった。その結果、最初はバラバラに存在していた思いが、「日本のために」という一点に結集され、不可能を可能にした。そのような強き意志が、今の私たちには必要なのである。

 と同時に、宇宙連合の力を借り、彼らとともに歩むことも大切である。先日、心でそう思ったら、すぐさまクェンティンさんから「よくお気づきになりました」とメッセージが返ってきた。私たちには、高次元からサポートしてくれる存在がいることを忘れてはならない。彼らは「日本には道義心や伝統など、すばらしい文化がある。今こそそれを思い出し、発揮しなさい」と言ってくれている。日本が高い精神性を取り戻せば、ガタガタになった地球も変わるというのだ。それにはまず、小泉政権を不信任することが肝要なようである。

 


◆交友録◆ ジョン・ガルブレイス(一九〇八年〜/経済学者)

 ルーズベルト、トルーマン、ケネディなど、二〇世紀を代表する政治家に大きな影響を与えたガルブレイス教授。その思想は、ダイナミックでありながら、常に「平和のために経済学は何ができるか」という視点に立っていた。

 「世界には、資本主義と社会主義という二つの社会体制がありますが、これら両陣営がいつの日かイデオロギー対立を乗り越え、互いを理解しあえるようになれたらよいと思います。私たちは一〇年、一五年先を見すえ、平和的な関係を、単に考えるだけでなく、実行していかなければならないのです」

 日本通でも知られる。焼け野原から驚異的な経済発展を遂げた日本は、教授にとって興味深い研究対象であり、尊敬すべき国であった。

 「日本の強みは、政府と企業が協調して資本や頭脳を軍事企業ではなく、民間企業に集中できたことにあります。恐らく将来アメリカからは『もっと軍事面に力を入れるべきだ』との圧力が大きくなるでしょう。しかし、それに影響されてはいけません。そうすれば、日本の競争力はもっと強くなっていくでしょう」

 近年では、バブル後の日本を、教授らしい斬新な視点で分析している。

 「アメリカでは、幸福というものがより多くの収入や財、サービスから成り立っているという考えに、人々が完全にとらわれています。この国ほど、人々の成功が財や所得で測られる国はないでしょう。だが、日本は違う。今の日本は、より多くの財やサービスを生産する以外の価値、たとえば、人生の余暇の喜びに重きを置くような、新たな文明に向かう可能性を秘めています。経済の発展段階において先頭を走る日本は、再び世界を先導しようとしているのです。悲しいことに、日本人自身はそれに気づいていないようですが…」

 『勝ち組』『負け組』などという呼称が闊歩する今の日本。今年九七歳になる教授の言葉に、私たちは大いに奮起すべきであろう

 


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