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マスコミでは報じられない正しい情報をより多くの方々にお伝えしたいという思いから、《中丸薫のワールドレポートVol.17》の内容を特別に公開することにいたしました。
* 中丸薫のワールドレポートは毎月一日に発行されます。 |
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◆国際情勢◆
『オーストリアの新政権誕生で揺れるEU』オーストリアで国民党と自由党の連立政権が誕生した。そのことをめぐって今EUが揺れている。ハイダー党首率いる自由党が「右翼」だとして、EU各国が「ナチズムの再来」として批判を浴びせているのである。オーストリアを除く、EU加盟国一四カ国は制裁措置を決定し、1)閣僚会談など政治接触の中止、2)各国駐在大使との接触を事務レベルに制限、3)国際機関のポスト選びでオーストリア人を推さない、などの方針を打ち出している。
こうした各国感情に配慮して、両党首は、欧州民主主義の原則に従い、外国人差別やナチズムの過去と闘うことを誓う宣言に署名した。これに対して、オーストリア国民は「内政干渉だ」として反発、EU各国でも中道・保守グループを中心に制裁措置への批判が相次いでいる。これまでEU は何度も危機に陥りながら、独コール、仏ミッテランのリーダーシップで統合への道のりを歩んできたが、今その結束に亀裂が入ろうとしているのである。
オーストリア自由党の躍進は、急進的シオニストたちがヨーロッパでくり広げるグローバリズムに対して、国民主義、民族主義が勃興した結果と考えることができる。その発端となったのがユーゴ空爆だった。空爆のために、基地として、また難民の受け入れ先として国土と国費と人命を差し出したヨーロッパ各国では、現在、移民問題や財政ひっ迫に直面している。その原因が、ヨーロッパでの覇権を広げようとする、ゴアやオルブライトらに代表されるシオニストの世界戦略にあるという認識はヨーロッパに蔓延している。そのことに対する反発が、今回のオーストリアの政権を生んだのである。
オーストリア自由党は国民から選挙で選ばれた政党であって、非合法の政党でも、ネオナチでもない。党首のハイダーは、「ナチス統治時代をすべて否定することはない」「わが国の兵士は犯罪者ではなく、犠牲者だ」「何十年たっても謝罪し続けなければならないのか」などと語り、第二次大戦の呪縛からいつまでも解き放たれずにいた国民の支持を得た。事実、オーストリアに関しては一九三八年にナチス・ドイツに併合された経緯があり、オーストリアをナチス・ドイツの加担者として裁くことには否定的な歴史観もある。カジュアルウエアーで国民と語り合い、連立を組んでも自らは南部ケルンテンの州知事のままでいるというハイダーは、国民の代弁者としてその「カリスマ性」をいかんなく発揮している。各国から外国人排斥と非難されている移民政策にしても、不法難民を取り締まっただけのことで、オーストリア国民からはもちろん、合法的に移住している移民からも支持を得ている。彼は、右翼でもネオナチでもなく、大衆を代弁する「大衆政治家」なのである。
オーストリアといえば、かつてはオーストリア=ハンガリー帝国として君臨した大国だった。それが第一次大戦に敗れた後、オーストリアとハンガリーがそれぞれ共和国として独立し、さらにハンガリーからチェコ・スロバキアが独立した。その後、第二次大戦で敗戦国になってからは、米ソ英仏の占領政策を受け、一九五五年に永世中立を条件にようやく独立を許された。しかし、ハンガリーとチェコは東欧圏に編入され、オーストリアは東西冷戦の激化のなかで、常に大国の思惑にさらされるという道を歩んできた。その戦後史は、敗戦国として占領軍の支配を受け、戦後五〇年を過ぎても国土を米軍基地として差し出し、外交上もことあるごとに「謝罪」を余儀なくされている日本の姿と似ている。だが、島国の日本と違って、東西冷戦の狭間に位置し、各国と国境を隣接するオーストリアは、日本以上に過去の呪縛に苦しんできたことは想像に難くない。そこに国民感情を代弁するハイダーが現れ、国民の支持を集めたからと言って、それを「右翼」と決めつけるのは早計だし、内政干渉であろう。EUが制裁決議をしてからも、国営オーストリア放送の世論調査では、「海外からの批判があっても大統領は連立を認めるべきだ」という声が半数を上回り、「EUの対応に疑問を感じる」と応えた国民も六割に上っている。
◇ヨーロッパ各国で広がる民族主義復活の兆しEUの強硬論をリードしたのは、シラク仏大統領とベルギー政府であった。人権や民主主義だけでは絶対に譲れない、これは国内問題ではない、というのが制裁の大義だが、一方でEUには「どんな民意も尊重せよ」という原則論もある。EUの前議長国であるフィンランドでは蔵相が早くから「内政干渉」に公然と異議を唱えていたし、デンマークの与党、社会民主党幹部も、「欧州統合の精神を支持する宣言に両党首が署名をしているのだからEUの制裁は目的を達した」としている。また、かつての同胞ハンガリーも制裁に反対しているし、ドイツでもオーストリア擁護の国民感情が高まっている。フィッシャー独外相は「オーストリアをEUの協議から閉め出す理由はない」としているし、ドイツ国民の八割が、政府やマスメディアのハイダー批判に反発しているという調査結果も出ている。EUにはオーストリアの政権誕生をめぐってさまざまな見解が交錯しているが、この一件が各国の民族感情に火をつけるのは間違いがなさそうだ。
以前に本紙で触れたように、第二次大戦後、ヨーロッパ王侯貴族たちは、二〇〇二年を目標に欧州統合のシナリオを描いた。その大統領にはハプスブルク家の当主が就任することになっている。この欧州統合への歩みは、独コール元首相、仏ミッテラン元大統領のリーダーシップによって推し進められてきた感が強い。ジョージ・ソロスの横やりを受けながらも通貨統合を実現できたのも独仏のリーダーシップによるところが大きい。しかし、政権の交代によって、EUはその求心力を失いつつあるばかりか、リーダーシップを発揮してきた独仏の間に亀裂が生まれようとしている。加えて、再登板を強く望まれていたコール元首相は、金銭疑惑でスキャンダルに見舞われている。このスキャンダルも、コールの求心力を恐れる闇の権力がリークしたものと思われるが、闇の権力の標的は、オーストリアを孤立化させてヨーロッパ全土で高揚する民族主義を牽制すること、そしてそれをきっかけに欧州を分裂させること、特に独仏を分裂させることにある。しかし、闇の権力が分裂を狙えば狙うほど、ヨーロッパでの国民主義、民族主義が復活の兆しを見せているのは興味深い。
オーストリアのかつての大統領ワルトハイムは、国連事務総長の職に就いていたころ、シオニストが国連を牛耳ってグローバリズムを押し付けようとするのを牽制した。それが災いして、ナチス・ドイツの将校だったことを暴露されて辞任に追い込まれたが、オーストリア国民は選挙で彼を大統領に選んだ。また、ユーゴ空爆の後、欧州各国が協力して独自の軍事構想を模索する動きも出ている。固有の文化、文明の破壊を目指す闇の権力は、金融支配力を背景にヨーロッパを席巻してきたが、ヨーロッパの伝統は連綿と引き継がれてきたものである。遺伝子に刻み込まれた本能が、そうやすやすと影をひそめることはない。オーストリアの一件を機に、先送りにしてきた問題に一致団結して向かい合い、ヨーロッパがさらに強い結束を実現することを期待したい。
◆トピックス◆
『イラン革命二〇周年記念シンポジウムでの講演を終えて』一月下旬、久しぶりにイランを訪れた。革命二〇周年記念シンポジウムで講演をするために一週間滞在したが、実に感動的で実りの多い旅となった。
印象的だったのは、イランの人々の清廉さだった。大統領はもちろん、政府高官から通訳の女性まで、聡明で志が高く、堕落した文明のひとかけらも感じられなかった。飛行機が一週間に一便しかないことを良いことに、首相官邸から街中まで、さまざまなところを見て回ったが、これほどまでに清廉な国は見たことがないと言っても過言ではない。これまでいくつものイスラム国家を訪問したが、たいていは晩餐にお酒が振る舞われるものである。だが、イランではただの一滴も出なかった。イランでは位が上になればなるほど、イスラムの戒律を守っている、そんな印象を強く受けた。 政治家たちが指導者にふさわしい品格と指導力を兼ね備えているのにも驚いた。シンポジウムの時、米国の代表が「イランが態度を改めれば経済制裁を解除する用意はある」と大国のおごりともとれる発言をした。それに答えた大臣は、イランの外交方針を理路整然と説明し、「むしろ正すべきはアメリカの方ではないか」と実に上品に、明快に英語で指摘したのである。あまりにあざやかな答弁に、世界から集まっていたVIPたちも、イランの知的水準と志の高さに感動することしきりだった。
イラン人の聡明さは、女性政治家たちも同じだった。私たち日本人は、イスラム教と聞くととかく「男尊女卑」を連想するが、イランには国会議員や、地方自治体の長や議員など、実に七三八人もの女性政治家がいる。
環境庁長官も女性だった。澄んだ瞳が印象的な彼女は、イランの置かれている環境問題の現状を実に的確に、わかりやすく説明してくれた。また、女性問題担当の大統領顧問は、まだ三十六歳の若さだったが、家庭を守りながら、一人の人間として志を持って生きている姿は、実に美しく、生き生きと輝いて見えた。
イランという国は明らかに発展を遂げていた。以前私がイランを訪れた時には、人口三二〇〇万の国だったが、今は六〇〇〇万になり、志高い政治家のもと確実に国力を付けたように見受けられた。これだけの人口とビジョンを得た国となると、さすがの米国も手の出しようがないであろう。加えて、太古の時代から受け継がれている文明の重みもある。近隣の湾岸諸国はアラビア語を使うが、イランはペルシャ語を使う。言葉や建造物、そして人間の品格にも、一万年の悠久の時の流れを感じざるを得なかった。
今回の旅を通して私は将来の夢に一歩近づいたと思った。世界が平和になるには、第三世界の自立を先進国が助けなければならない。そのためのシンポジウムを開きたいと常々考えていたが、そのビジョンが今回の旅を通して、はっきりと見えたのである。
第三世界の深刻な問題のひとつに環境問題がある。これは人類共通の課題でもあるが、残念なことに、環境問題の解決のために必要とされている技術やお金は、本当に必要とされているところには届いていない。環境庁長官からイランが置かれた状況を聞いている時、「この問題の解決のためにお手伝いしたい」という気持ちが心の底からこみあげてきた。イランだけでなく、すべての第三世界が苦悩するこの問題を解決するには先進国の技術と資金、そして人材が必要である。だが、現状では国や大企業の利益が錯綜し、環境問題は堂々めぐりを続けている。だから、私はそれを一地球市民の立場から問題提起し、協力してくれる人や国とともに解決に当たりたいのである。そのためにシンポジウムを開きたい、今の私なら湾岸諸国もアジア各国も欧米諸国も呼ぶことが出来るIそう思ったら、これが私の近い将来の使命だとごく自然に思えたのである。
日本はもはや人の国に産業廃棄物を廃棄してまで経済的な発展を追求する必要はない。今の経済力、技術力を世界の人々や地球を癒すために使うことが日本の使命ではないだろうか。今回の旅を通して、私のなかで人間復興と、地球の癒しとがはっきりと結びついた。そしてまた、日本の役割も自覚できた。
人と人、人と自然、人と宇宙の絆を結び直すことが恐らく私の今生での使命であろう。心を宇宙と合わせることを「響働」というが、私が明確なビジョンを持っていれば、後は天が必要な時に必要なものを降ろしてくれる。次なるシンポジウムのビジョンをしっかり持って、心の浄化に努め、宇宙と「響働」しながら毎日を生きていきたいと心から思った一週間だった。
◆交友録◆ フレデリック・フォーサイス 「目の前で起こっていることはあまりにも悲惨だった。それをレポートするために私はここにいるのに、デスクは一向にとりあってくれないんです」
BBCのレポーターとしてアフリカを取材した時のことを彼はそう回想した。マスコミで報じられていることは、真実とは違うのではないか一かつてマスコミで仕事をしていた私が体験したことと同じことを彼も味わっていたのである。彼はその後、イギリス政府へも、マスコミへも信頼を失い、BBCの仕事を辞め、フリーのジャーナリストとしてアフリカの現状をレポートし続けた。政治的な意図から人為的につくられる飢餓、せっかく届けられても廃棄される救援物資…彼はやがてそれを「ビアフラ物語」として発表する。
彼が世界中から注目されるようになったのは、一九七一年に「ジャッカルの日」を発表した時のことだった。ド・ゴール仏大統領の暗殺未遂事件を題材とするこの小説は、まったく新しいタイプの国際陰謀小説として瞬く間に世界的なベストセラーとなり、アメリカ探偵作家クラブの年間最優秀長編賞を受賞、映画にもなった。以後彼は、「オデッサ・ファイル」、「戦争の犬たち」と、次々に作品を発表、最近では湾岸戦争を告発した「神の拳」、軍産複合体の野望を描いた「ネゴシエイター」、CIAの諜報活動を題材にした「イコン」などがある。
「小説の筋書きは瞬間的に浮かぶんです。ちょうどコンピュータにインプットされたようにね」
それからリサーチに六カ月くらいをかけて作品を完成させるらしいが、彼の精密な描写は、ジャーナリストとしての洞察力が成せる技であろう。私が初めて彼の小説を読んだのは、リビアでのことだったが、リビアの置かれた状況が彼の描写する世界と通じることもあって、私は一気に引き込まれてしまった。ジャーナリストとしては知らせ得なかった真実を、小説という方法を使って世に知らしめた彼に、私はとても共感を覚えた。彼との出会いは、「真実を伝える」という私の志に今も光を与え続けてくれている。
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